2012年8月7日火曜日

遠景を楽しむ私


レストランへ行った。チェーン店ではあるけれど、景色がいいし気持ちがよい。
奥のほうのテーブルに案内してもらい、待ち合わせた友人と向かい合って腰かける。
急な豪雨で、熱くて重たい空気が少しばかりしのぎやすく変化し、
午後の時間はやわやわとゆっくり流れた。

ランチがおわるころ、アンケート用紙が配られ、私も会話のあいまに記入。
アンケート用紙とボールペンの相性がよくて、それもうれしい。字を書くのがすきだし。
こげ茶色とオフホワイトの色調、黄色がかった淡い光線を放つシャンデリア。
天井がとても高いことや、空間がのびのびと広いこと、大きなガラス窓の向こうに
私の場所からは左右同じように配置された緑の木々が見えてとても美しいことを、
アンケートの項目を読みながら、あらためて楽しむ・・・のである。

私は、アンケートによって「態度の如何」を問われているウェイトレスがふたり、
じつに優秀な笑顔で、ふたりの少女に対応しているのを、見るともなく見つめた。
教育がいきとどいている、にマルだ。
テーブルにむかっているふたりの少女たちはそろって白いブラウスを着用。
そろって銀のお盆をかかげた笑顔のウェイトレスに、なにごとかを説明され、
行儀よく頷いている。
従業員の面接がこれからあるのだろうか、と私は想像した。
ふたりの少女も、ふたりのウェイトレスも白い服装である。
彼女たちのうしろにはピンクのブラウスの女の子がふたり順番を待っている。
さらにそのうしろには赤いブラウスの女の子たちがふたり順番を待っている。
その光景は遠く静かで、いかにも整然としたところがあって、美しかった。
こんなにきれいで気持ちのよいレストランだから、働きたいひとが多いのもわかる。
そう思う。私は、雰囲気は「とても良い」にマルをつけた。
「いいわねえ、ここ、デザインがいい。これぐらい広いと本当に気持ちがいいし。」
帰ろうというころになって、友人にたずねた。
「あの人たち今日はこれから面接なのね、きっとね?」
ふたりづつ並んでテーブルについている、白とピンクと赤のブラウスの少女たちのことを
言ったのである。
「面接? どうして?」
なぜだか知らないけど友人が腑に落ちないというふうに私にきき返す。
「だって、ふたりづつ並んで、順番を待ってるじゃない、さっきから。
ウェイトレスが説明に来てたじゃないの、さっきふたりで」
私が説明すると、
ふたりづつ? と友人はあっちのほうに目をこらし、事情がわかると爆笑した。
「ふたりじゃないわよ、あれ! ひとりよ! 鏡に映ってるからふたりに見えるのよ!」

鏡!?

そんなことってあるだろうか!
あの赤も、ピンクも、白も? 女の子たちみんなひとりで腰かけてるの?
「そうよう、もう信じられない、面接とか、そんなヘンなことつぎつぎ考えて!」
じゃあ、えーっ、このレストランって私が見てる半分だけってことなの!?
私はすごくあきれた。
だけど友人は私よりもっとあきれちゃって、
「なによ、それじゃあ、あなたにはずーっとここが二倍に見えていたわけなの?!」
私は聞いた。
じゃあ、あの窓の外の木はこっち側だけ? あっちにあるのは鏡だってこと?!
この冷房のきいた心地よい大空間。
「鏡よ、なに言ってるの、まさかあの木もホンモノだと思ってたんじゃないんでしょうね!」
じゃあ、さっきのウェイトレスがシンメトリックだったのは当たり前なんだ?!
みごとに銀のお盆をふたりで掲げて見せてたけど、ひとりでやってたの?
うそお!? 
「うそみたいなのは、あなたのほうよ! どうもおかしいと思った。
ほかのお店とくらべてさほど大きくもないのに、さっきから広い、広いって言うし!」
・・・えー!? 

アンケート用紙を災害義捐金の箱に入れてしまい、
・ひとり・のウェイトレスがムリに手を突っ込んでそれを出した。
散々だ。私が近眼なのに、メンドーでメガネをかけないからだ。