2020年3月3日火曜日

仲代達矢2013年80才


「日本映画黄金時代」
60代以上の日本人には、ものすごく読みやすい。
私は多摩市立図書館で借りたけれど、買っても780円。
登場人物すなわち演出家、監督、俳優、すべて一流オールスターキャスト。
・・・それだから、よくよく知っていることのように、派手に読めてしまう。
なにしろ日本映画黄金時代の回想なのだ。 

本書の構成者である春日太一は1977年生まれの35才。
もし運がよかったとして、ヒトが持てる能力を全開できるって、
この年頃だとはよく聞くが、彼の道案内はすばらしい。
控えめでいながら、いまの30代が知りたい学びたい「社会科学」を、
仲代達矢ごしに、最後まで追求している。

原点にかえって。
われわれは案外そういうことを気楽に口にするけれど、
・・・自分の、原点なる感情を忘れず生きることは、
職業が要求しないかぎり、日本人がめったにしないことである。

原点の方はまだいい。原点は過去だし、一見したところ自分には責任がない。

人間としては、そのあとの日本列島内での紆余曲折が大変だ。
生活がらみで生きるっていうことが。
仲代さんだって、そうだったろうと思う。
若い時から「モヤ」というのがあだ名だったぐらいのものだ。

本書は、仲代達矢のたぐいまれな表現者としての一生を語るものだが、
同時に彼の虚無的な思考の、
戦争体験が生んだ歪みや、ひがみの原点とその行方を、
どこどこまでも追って、私たち読者を最後まで離さない。

仲代達矢の思考の原点とはなにか。
人間不信だろう。

「日本映画黄金時代」というこの一見ど派手な物語は、
人間とは不信な者であると、言っているのだ。

俳優は職人だと、それは仲代によって本書でも語られていることだが、
職人的誠実さを極めた、超一流の老優を一心に追うことで、
この本の編著者35才は、以下のように主張する。
ヒトは、人間不信の標的になるまいとすれば、究極こういう生き方になると。

彼は仲代達矢の本質ををそうとらえたわけなのだ。
この本を読む幸福は、そういうところにもあると思う。