2020年3月7日土曜日

オランダから電話。


「ねえ、お母さん、だいじょうぶ?」
遠くで遥が笑っている。
「わたし? 私は元気よ。心配しなくていいわよ」
病気だと言ったから心配しているのだ。

「ねえ、お母さんお母さん、」と遥が言った。
お母さん、日本人ておかしくない? 
お母さんの知り合いでコロナ・ウィルスにやられたっていう人いる?
いないでしょ? 知り合いのまた知り合いでもいいけど、いる?
一人もいないでしょ? おかしいよ、この騒ぎは。
私もね。いろんな友達にきいたけど、コロナにやられたなんて一人もいないわよ。
だのになんで、マスクやトイレットペーパーの買い占めに走るの?
誰か一人でもいい、知り合いにそういう人が出て来るまで信じないって、
友だちみんなで話しあってるのよ。おかしいもん。
「私は今度の騒動はなにかファンタジーだと思ってるけど」と娘が言う。

ファンタジーって、幻想ということだろうか。
「遥、遥はオランダで、東洋人だからって差別されたりしないの?」

差別? 大丈夫よお母さん、あたしずっと風邪ひいてるからね、クシャミしたり
咳したりしてイヤな顔されるけど。
はははは。そりゃ当たり前だし、会社休んだから大丈夫よ。


大丈夫じゃなくても、どうにもしてやれない、いつも。
外国暮らしの長い娘をもつと。
でも、遥は、あたたかいし楽しい。この子はがんばってきたけど、
 小さい時のまんま、思いやりがあって、愉快なまんまだ。

いつも笑う用意ができているような声。