2020年2月12日水曜日

鳥取の思い出 1


鳥取の思い出は三つしかない。

小さかったのに、お手伝いさんに連れられて、何日かそこにいた。
市川崑の「獄門島」や「犬神家の一族」に出てきそうな立派で暗い農家。
自分の家が、お手伝いさんの家より小さくて安っぽいとびっくりした。
門を入ると大きな椎の木があって、椎の実を炒って食べさせてもらった。
おいしくて茶色の小さい実だった。もう一度、食べたいなあと思う。

そのどっしり大きな家には、恵子さんのお父さんと、大人になった弟が二人、
ほかにも家族がいたはずだけど、ほかの人のことはなんにも思い出せない。
ある日、縁側にいたら、大人の弟が私の頭を急に木の枝で殴った。
恵子さんかだれかが飛んできて止めた。たぶんその弟は脳性まひ、だった。
・・・小学校1年生の夏休みの思い出・・・。
彼が慌てた誰かに手をひかれて奥へ行ったあと、恵子さんとお父さんが、
私の頭の上でした遠回しの会話が、その抑えた話しようが、
私の、木の枝で打たれた痛みを、がまんができないほどにした。
私がそういう子どもだという話。怒られることが多くて。
痛いことでは泣かない、隠れて、声をださないようにする子ども。

家の中より砂丘のほうがラクと、はじめて砂丘にのぼった時、思った。
砂丘はたくさんあって、風が吹くと、いまいる場所からちがう場所へいく。
大きくてのぼるのが大変だった。