2020年2月22日土曜日

繕いもの


繕いものを引き受けて下さる人が見つかったので、すごく喜んでいる。

職人気質(かたぎ)の厳しい人だ。
「クリーニングに出してから持ってきて下さい」という顔がすごく厳しくてこわい。
洗ってからアイロンをかけて持ってきたんですけど、それじゃダメでしょうか。
そうたずねると、「クリーニングとはそういう意味ですよ」と許してくれた。
きっと、優しいけれど、筋が通らないことが嫌いな人なんだろう。
私がお願いしたい繕い物はどれもオンボロで、裾(すそ)がほつれて、
クリーニングに出すぐらいなら、いっそ捨てたほうがいい古ズボンだ。
でも普段着だし、襤褸だってかまわない、
ゴムをちゃんと付け替えてあと1年か2年はなんとか、と思う。
「これは仕事用にと買ったもので型が私にはめったにないほど良いんです。
どんなにオンボロでも、なかなかこんなズボンには出会えません。
だけど、もうこんなのないし、お金もないし」
あらまーあらまー、タイヘンだこんなにあるの、とその人が言った。
「仕事着ですから。同じの買ってバカの一つ覚えみたいに、いつもこれで」
「なるほどね。そういう気持ち、わかる気がするわね」
彼女はゆっくりズボンを調べた。
私達は団地の集会所そばのベンチで話している。冬の寒い突風の下で。
「ふうん、ふうん。ゴムぐらいならあなた、ご自分で付け替えられるでしょうに」
そんなことしたくない。目もかすんで針が持てない。時間が惜しい。
そう言うと、じゃあナニがしたいのとしゃがれた声できく。
「ものを書いていたいんです、私は、とにかく」
「ふうん、そう。私なんか、字書くってなると、なんにもすすまないわね」
「そりゃだって、あなたは職人さんだもの、苦手が当然でしょ」

よかったー。
これで私、やっとこの夏のズボンを、確保した。